Alpha024訳詩〕

 

エクトル・ベルリオーズ(180369

1.美しき旅の女

2.ハープの起源

3.デンマークの狩人

4.酒席の唄

5.さらば、ベッシー

6.小鳥

7.ブルターニュの若い牧人

8.戦の歌

9.野原

10.        ブルターニュ人の歌

11.       

12.        日の傾くころ

13.        恋のはじまりの熱狂

14.        哀歌

15.        聖歌

 

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CDでの歌唱はすべてフランス語。

原語歌詞は原語解説書p1734をごらんください。)

 

1.美しき旅の女(ひと)

 

彼女は一人で旅をしている

髪には金の髪止めが光り

手にした杖の先のほうには

宝石がひとつ、光っている

しかしルビーの輝きも

彼女の美しさにはかなわない

百合のような真珠の輝きも

その白い肌に霞んでしまう

 

美しい乙女よ、あなたは危難を

避けんがために、旅をするのか?

そんなに美しく整っていたのでは

さぞや危険を呼ぶことだろう。

いちばん信頼できる男も

金と輝くあなたを前に

その手はおののき、その心さえも

信頼に足るかは怪しくなるのだ。

 

騎士どの、しかるにこの島では

わたしの心に不安などありませぬ。

この安らぎの地では、誇りこそが

至高の富と目されるのです。

われらが涙の流れるときには

それを見て誰もが立ち止まるのです。

黄金と輝く魅力があるのに

何を恐れるというのでしょうか?

 

そうして何も気がねをせずに

彼女は乙女の微笑みをかえす

それは緑の島じゅうに広がり

彼女の道をあかるく照らす

かくて、あまきハープの国よ

おまえの子らは名誉にも

かくなる乙女の信頼をば

いただく祝福を受けたのだ

 

 

2.ハープの起源

 

愛しきハープ、あなたに寄りそうその調べ

この楽器はかつて、人魚だったのです――甘く、人心惑わす声で

歌うその声が、海辺に響いていたのでした

夕暮れ迫る頃、彼女はそっと岸辺に這い上がり、

霧に隠れて、葦の生い茂る中で

かつて愛した若者の姿を探すのでした。

 

しかしそれは報われぬ愛、どれだけの夜を

彼女は涙にかきくれて、巻き毛を濡らして過ごしたでしょう

かなしい恋の、涙の宝石で。

しかし真実の愛こそ天の知るところ、

ある日突然、悲しみに満ちた海のおとめは

その姿を、美しく鳴りわたるハープに変えたのでした。

 

体はしなやかな曲線を描き

頬は希望に輝くようで、

胸はまだ息に上下しています。

髪は水の流れにほどけて

もう動かないその白い腕にかかり、

輝く弦へと変わるのでした             

 

それがここにある、愛しきハープなのです

とこしえに、ひそやかな愛の調べを

悲恋のかなしい音色で奏で、

いまだ心を揺らし、息をしている

私があなたに寄りそえば明るく、

遠ざかれば悲しげに、語りほぐすのです。

 

 

3.デンマークの狩人

 

ほら、ヒースのむこうの方から

ヤマシギの声が聞こえてくるよ

ほらお父さん、はやく起きて

新しい冒険に乗り出さなくちゃ

狩りへ、狩りへ出かけよう

神様がついていてくださるよ

そして、表で鳴いているやつ

夕陽の頃には、もう獲物袋の中さ

 

ほら、僕らのかしこいスパニェルだって

あんなに吠えているじゃないの

もう日は高いよ、ってそう吠えるのさ

狩りに連れてってほしいんだよ

 狩りへ、狩りへ出かけよう...

 

どうか起きてよ、お父さん

もうすっかり遅いじゃないか

ぼくの声が聞こえないの

いつもこんなに寝坊しないのに

 狩りへ、狩りへ出かけよう...

 

かくて幼き子は小屋で

むなしく父を呼ぶばかり

あわれな父親、狩人は

二度と口を開くこともなし

 狩りへ、狩りへ出かけよう...

 

 

4. 酒席の唄

 

友よ、酒が溢れそうだ!

この盃がどうか、ひとときの間

われらが心の火を掻き立てんことを!

それははかない一瞬の

逸楽のたのしみに他ならぬ

さあさ、憂さなど追い払おう。

 

そうさ、このおれの心がいつも

塞いでばかりいるなどと思うな、

この心をさらけ出すおれの

歌はたいがいめそめそしていかん、

明るく陽気なこの宴は

思い沈むまつげの先で輝く

さながら王冠のようではないか、

とらわれの王にはこれがお似合いだ。

 

ああだが、友よ、酒が溢れそうじゃないか!

この盃がどうか...[以下、繰り返し]

 

おお、世にもしあわせな奴儕(やつばら)よ

何だってそんなに陽気に騒げる、

浮世の悲哀など知らぬというのか?

ここに小さな悲しみが、心苦しめる思い出があるのだ。

ちょっとでも触れば痛みが燃え上がる

小さなミソサザイがとまっただけで

頼りない小枝がうなだれるように...。

 

 

5.さらば、ベッシー

 

こんなに、こんなに離れて、ベッシー、愛しい君よ

僕は忘れたい、悲しみ溢れる日々を

ああ憧れの、あの悦しき日々よ

それはもう二度と戻らないのか?

さらば、ベッシー!だがきっとまた会おうぞ!

 

幸福な日々がいつかまた来る

そう信じよう、未来のことを

その時にはこの辛い日々のことも

ただの思い出になるだろうから

さらば、ベッシー!だがきっとまた会おうぞ!

 

君に心を打ち明けた時に

僕は永遠に、君と暮らせると思った

ふたりの愛は、まだ始まったばかりだ、

運命に定められたこの愛は

さらば、ベッシー!だがきっとまた会おうぞ!

 

今やこの僕の心は砕けて

穏やかさや、甘美な安らぎなども失せた

たったひと時、あの男のせいで

君は永遠に連れ去られたのだ

ああ何ということ、ベッシー!だがきっとまた会おうぞ――

さらば!

 

 

6.小鳥

11.朝

 ※2曲とも同一の歌詞。ただし「小鳥」[6]は第3節を欠く

 

 

朝がまた始まるのを

祝おうと

小鳥は早起き、寝坊なんてしない

夜明けとともに飛び起きる

朝がまた始まるのを

祝おうと。

その歌声はやわらかく滑らか

優しくさえずるその歌声に

世界はゆっくり目覚めはじめる

 

ごきげんよう!小鳥さん

なんてかわいい、

木々も互いにさざめきあって

きみの楽しい歌にこたえる

新しい素敵なきみの歌

なんてかわいい、

茂みの奥から聞こえてくる

そのおだやかなさえずり声には

牧場もうっとり、聞きほれる

 

ほら起きてごらん、あの歌を聞いて

あの素敵な歌を

僕のやさしいお母さんも

草葉の蔭で聞いているだろう

こうしていつも小鳥は歌うよ

あの素敵な歌を。

僕の中にあるやさしい気持ちは

つねにあなたのいた頃の

なつかしい日々を想い描いています

 

さようなら!羽根のきれいな

かわいい小鳥さん

日がまた昇れば、聞きにくるよ

きみの素敵な歌声を

さようなら!羽根のきれいな

かわいい小鳥さん、

きみは約束してくれた

この牧場を創られた神を

そのさえずりで、讃えてくれると。

 

 

7.ブルターニュの若い牧人

 

鶫(つぐみ)がそろそろ起き出す頃

まだ朝露で土が湿っている頃

私はもうここへやって来て、

日が沈むまで、すわっている。

婆やから逃げてきたのだが

彼女がいうには「ロイクは仔牛を甘やかし過ぎじゃ」

ああ!んだあ、そげなこだねえ

アンナがかわいいだけじゃねえか

 

さて、我が友アンナといえば

ゆうゆう山道を越えゆくよ

にわとこの間を抜けながら

うしろに黒山羊たちを連れて。

けれど、こうしてさ迷う山並みが

まるで壁みたいに私たちを隔てる

やさしくモウと鳴くアンナの声、

森の奥から、私を呼んでいるのだ。

 

ああ、やさしい風はさざめき

互いの呼び合う声を運ぶ

姿は見えないながらにも

呼び合えることの嬉しさよ!

高い峠から深き谷まで

互いの声は呼び交わし

それはさながら憂うつと

悦びにあえぐ、ため息のよう

 

気まぐれな風よ、ちょっと気をつけろ

ちょっとは息を引き締めてろよ

せいぜい麓の、麦穂のあいだで

駆けずりまわって、遊んでろ。

ああ!神さま、いやな風の翼が

かぼそいあの声を連れ去ってしまった

やさしくモウと鳴くアンナの声、

森の奥から、私を呼んでいるのに。

 

 

8.戦(いくさ)の歌

 

英雄たちの血にいまだ染まった

これらの歌を忘れてはならぬ

彼らのために涙を流して祈ろう

輝かしき自由が、我らの住処にあらんことを。

 

彼らはもういない、だが死にざまは勇ましかった

我らに輝かしい希望を残して、

そこには主人も奴隷もないのだ

新しい世界がとこしえに続くのだ!

 

英雄たちの...(以下、繰り返し)

 

しかし何ということだろう、戦の間に

不当にも死に追いやられた者たちを、

悲痛な想いで葬ることが、こうして自由を

勝ち取った者たちの最初のつとめとは!

 

英雄たちの...(以下、繰り返し)

 

ただ誓約のみに拠って、戦などなく

権利を保てる民族は幸せだ

王の冠から引き下ろされた、この

自由はなんと、かけがえがないことか!

 

 

9.野原

 

わが薔薇よ、夜明けだ、さあ行こう

やわらかなこの褥(しとね)をぬけ出て

鐘の音が聞こえてくるだろう

逢引の時を告げているのさ

くり出そう、街の喧騒を離れ

ひそやかな愛の隠れ家をもとめて

野原へ出かけよう、野原のほうへ

幸せな時を過ごせる野原のほうへ

野原には野原の愛がある、

行こう!野原の愛があるのさ

 

さあ、やわらかい草の上を歩こう

腕をいとしい人にあずけて

大自然とふれあおうじゃないか

僕らがもっと愛し合うために!

鳥たちも目覚め、先を競って

茂みの中から僕らを呼んでいる

野原へ出かけよう、野原のほうへ...[以下、繰り返し]

 

川の傍にも寄ってみようか

君は遠くと思っているけど、

茂みに隠れて、僕はそっと

君のおぼつかない足取りを見ている

苔生(こけむ)す川辺で君を抱きたいね。

世間は遠く、草はいい匂い

野原へ出かけよう、野原のほうへ...[以下、繰り返し]

 

こうして日は過ぎる――さらば、つまらぬ見世物小屋よ!

さらば、わが愛しきパリよ

美術なんぞは夢にも出てこぬ

優美さなんぞは消えうせた街よ!

薔薇よ、わが薔薇、羨望をよそに

甘美な秘密を守ろうではないか

野原へ出かけよう、野原のほうへ...[以下、繰り返し]

 

10.ブルターニュ人の歌

 

そう、俺たちもまたアルモリークの男さ

勇気凛々、だが平和を望んでいる

背中に髪を垂らした奴らで

何か言い出せば最後、誰にも止められぬ。

正直一本、裏切りは赦さない

先祖も崇めたイエス様を信じ

古い歌なら今でも歌っている。

おい、ふざけるなよ――ブルターニュ人はこれで最後じゃねえ

今でも、昔日の血が脈々と続いている

花崗岩の大地、樫の樹々が育つところよ!

俺たちが愛すのは、このふるきブルターニュ人の地だけ

森が生い茂り、海に囲まれた地よ!

 

 

12.日の傾くころ

 

何といとおしいことだろう、この夢幻の時は

地平のかなたが朱に染まりゆくころ

まだ燃えさかる太陽が

しずかな海に沈んでゆくころ、

恍惚と我を忘れて、心には

甘美な昔日への想いが満ちゆく

黄昏はゆっくりと溜息をついて

わが宵の明星へと去りゆく

 

輝き残る夕陽の線が

やわらかく

かすれゆく大地をしずかに覆い

海の先まで包むのを眺め、

この心はただひたすらに

かなたの国へ飛び去ろうと欲する――

幸福に満ちたその島々が、きっと

この黄金色の輝きの果てにあると信じて

 

 

13.恋のはじまりの熱狂

 

恋のはじまる胸の高まり、それは誰にも忘れえぬ、

はじめての告白、最初の誓い、

恋するふたりの――

それは星降るイタリアの宵、

世界は上気し、空気はとどまり

どこからだろうか、オレンジの香りが漂っている、

そんな空気を夜鶯もまた

歌いながらに愉しんでいる。

はたしてどんな芸術が、そうして歌われる稀有のことばの

天上の音楽にかなうのだろう?

初恋よ、おまえはどんなに素晴らしい詩よりも

崇高なものではあるまいか?

それとも、いつかは終わるこの逃避行のなか

おまえは、秘儀を宿したシェイクスピアが

死して天へと連れ去った、その詩情そのものではないか?

心燃えさかる幸せな若人たちよ、

たまさかに一目、見交わしただけで

心寄せ合う若人たち、

一つの魂を生きる二人よ、

どうかその愛は、そっと花の下に忍ばせて――

そこで燃えさかる二人の炎は

あまりに純粋な恍惚に満ちて

言葉などなく、ただ涙が流れるばかり。

幸せな若人たち、いかなる宝物も

その微笑みの片方すら奪えまい!

ああ!その甘美な蜜の味を、ただ思うがまま悦しむがいい、

それは神の杯よりあまく

天使たちでさえ羨むほどの

天上の喜びというべきものさ!

 

 

14.悲歌

 

あなたを崇めたその男の名に

過ちと悲哀ばかりがつきまとうなら、

どうか泣いてくれ、もしあなたがために

名誉を捨て去り、命を投げ出した男がいるなら。

そうだ、泣いてくれ、

まわりの奴らがどう責めようと

涙がすべて潅いでくれる、

神はご承知だ、みなにとっては罪と見えても

私はただ、あなたを愛しすぎただけなのだ。

 

あなたは私の恋の夢で

私の理性はあなたのものだった、

そっと最後の祈りを唱えながら

私は二人の名を一緒に並べたものだった。

ああ、恋人たちに、友に祝福あれ、

輝かしいあなたの人生を見届ける者たちに――

けれど、どうかそれに続けて

神のやさしい祝福があらんことを――

あなたのために命を投げ出した、

その男の名誉の上に!

 

 

15.聖歌

 

全能の神、曙の星よ!

我らにその豊かな法を守らせる者よ

誰の嘆きをも聞き漏らすことなく

すべての善はあなたより来たる

 

沈みゆく陽が、我らの辮髪の上に

流れる雲間から放つ光

まるで終わりゆく日の別れの挨拶だ

宵の明星の輝き、それは夜の

帳を飾る星でもあるけれど

これらはみな、神の目が投げかける光だ。

 

全能の神、曙の星よ!... [以下、繰り返し]

 

春のかぐわしき花の香り

夕暮れに生える宵の明星

リラが奏でる天上の調べ

みな、あなたの呼吸のこだまなのです

これらはみな、神の目が投げかける光

全能の神、みなあなたの呼吸のこだまなのです

おお、神よ!全能の神よ!

 

 

※原詩の作者:

 

[1][2][3][4][5][8][12][14] [15]:

              トマス・ムーア(17791852)の詩(英語)をトマ・グネ(180169)が仏訳

[6][11] :   アドルフ・ド・ブクロン(181382

[7][10] :  ジュリアン・オーギュスト・プラージュ・ブリズー(1803/61858

[9] :        ピエール・ジャン・ド・ベランジェ(17801857

[13] :       エミール・デシャン(17911871

 

(訳:白沢達生)