1.ベルガマスカ「相乗り小舟」

小舟の船頭:

さあさあ、そこ行く旦那がた、
こちらの小舟に乗っておくれ、
何しろ風は昨日から
おあつらえの向きに吹いている、
そーれ、みんなで漕ぎ出そう
おいザネット、舵をとれ
ほらスカルピン、帆を張った
前の檣(ほばしら)はスカトッツァが立てろ
おー、なんてこった!酒の器を割るんじゃねえ

ロンバルディアの男(ロンバルディア方言で):

それじゃさっそく、一番のりだ
俺が乗り込みゃ、みんな幸せ
カルン・サラッ(干し肉)を持ってくよ
チーズをからめたモツもうまいぜ
そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

ドイツ人(ドイツ訛りで):

わっしも一同、楽しくしますわい
ニョッキに、マカロニはまかしとき
素敵なワインも、何本もありまさ
なんせ、大瓶山への旅ですよって
そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

ナポリの男(南国訛りで):

そっちの鍋に蓋をしておくれ
ピエットリーナ(ラード)とブロッコリで料理中だから
どろぼう猫が寄ってきたなら
木靴でどやしつけてくれ
そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

トスカーナの男:

わたしはオムレツをふたつ持ってきた
うみたて卵いっこで作ったよ
肉だって3オンス(約100グラム)もあるさ
たれも、小魚もちょっぴりあります
そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

フランス人(フランス語で):

ポタージュなんぞはいかがです、
ジャンボン(ハム)や雉(きじ)肉も用意しました
それと、チーズをかけたブイヨン
ところでどうです、わたしの手はきれいでしょう?
そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

スペイン人(スペイン語で):

豚肉のアサード(ロースト)なんざ、くだらねえ
だがな、ソラマメはばかにならねえ
それにラディッシュ、魚ときたら、
こいつはたまらん、たいそううまいぜ
 そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

ジェノヴァ人(リグリア訛りで):

ウイキョウと干魚もお忘れなく、
わたしも見事なワインを出そう
チーズはちゃんと削ってあるし
香辛料の準備も万端
そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

小舟の船頭:

それじゃあ、上手に分けましょう
フランス人にはハムを、
スペイン人にはラディッシュを、
ドイツ人にはワインの壜を、
(コヴィエッロは、鍋を見張っとけ。)

ロンバルディアの方はモツを
トスカーナの方は小魚を
みなさん、喉もからからですな
そーれ、みんなで漕ぎ出そう(…)

一同(ベルガモ方言で):

――うわあ、猫がチーズを盗んだ!
――こらスカルピン、ブロッコリなんてほっとけ
――ザネッティンも食ってる場合じゃねえだろ
――みんな木靴を手に取れえ。

――どろぼう猫め、遠慮もなしかい、
――ほらほら、頭をつかまえろ、
――わしは飲んでてよさそうかしら。

――おー、なんてこった!酒の器を割るんじゃねえ!
そーれ、みんなで漕ぎ出そう
歌はこれにておしまいです
船乗りはめいめい持ち場について
力をあわせて舟を動かそう、
たのしく舵をとりましょう。

2.ルチア夫人の謝肉祭の山車〜ルチア夫人の嘆きとコーラの返答

ルチア:

おお、何という悲運!誰がこのわたしを慰めてくれるだろう
あなたはわたしから去ろうというのですか
わたしの太陽、わたしの心、わたしのコーラ!
ああお願いです、ここへ来てわたしを救ってください
これでは、わたしの人生にはむごくて
苦々しい死が待ち受けているだけです

コーラ(またはコヴィエッロ):

そう、わたしは離れてゆく
あなたの残酷さから逃れたいのだ
もっと慈悲深い女はいくらでもいる
蜜のようにあまく、わたしの気に入る女が

ルチア:

おお、コヴィエッロ!なんて残酷で恩知らずな
止まりなさい、どうか、お願いですから
わたしから逃れるなんて、去ってゆくなんて...いとしいコヴィエッロ
置き去りにされたこのわたしの人生に、救いを
さしのべてくれないのですか――どうか、安らぎを
ください、わたしのいとしい人よ

コーラ:

いいや、わたしはもう離れない
あなたの芳わしい美をもっと味わいたい
なんて美しく、愛情にあふれていることか
蜜のようにあまく、わたしの気に入る女よ
雄鹿は逃げず、風吹き去らず
コーラもまた止まり、苦しむのである
その愛くるしい顔ゆえに死んでもかまわない
雌犬ルチア、おそろしい獣よ!

両者:

もう泣くことはない、満たされた日々を重ねよう
はちきれんばかりの喜びに心躍らせながら
その愛くるしい顔ゆえに死んでもかまわない
雌犬ルチア、おそろしい獣よ!

3.愛が、富が、いかに心を打ち砕くか知らぬ者があろうか

愛が、富が、いかに心を打ち砕くか
そのことを知らぬ者があろうか、
かたや恐ろしい矢を放ち、かたや人を引き裂くのである、
そしてなにより千変万化、捉えどころがない。

その目は、パンドラが箱に収め、スティクス川が育んでいる
全ての悪徳をたたえてこちらを見つめる、
そうなると、アヴェルノの冥府の入り口でさえ、月が太陽に遠慮するように
わたしの泣き声に譲歩をみせるほどだ。

恋に落ちた者は、そのような危難に身をさらすのである。

愛しい女性に心を捧げ、
その人の目にその身を焦がし、
たかが髪の毛ひとすじのために有り金を使い果たす始末。

ああ、そうして非常にしばしば
放たれた矢よりも迅速に、
あわれな恋する者は、美しい顔をしたまま
天から地獄へと堕ちてゆく、
愛の賜物が岸を接する
曇りなく広がる大洋の
濁りない真っ只中から、
冥府の底へと、まっさかさまに滑り落ちるのだ。

こうしたことを、わたしは経験から知っている、
涙の学び舎にこの身をあずけ
我が身をもって、学びえたのだ。

そこでは愛神が、なんとも厳しいことに
私を厳格なる死の説教壇の下に座らせるので
そこで愛について問われたならば
私の証言に耳をかたむける人に対して
私はたった二つの奇妙なものごとしか差出せない、
この不朽なる名声と、尽きせぬ
誇りに満ちた、我らの世紀にあっては。

愛する人の美しさは太陽のよう、そして
恋の苦悩は、熱き吐息がこれを取り巻き、
そして、愛の苦境に陥った誰かが置いていった
身をよじるような嫉妬という
きわめて冷たい氷の衣装を羽織っている。

我が心はいつもプロメテウスのごとく、
風雪にさらされ、こごえながら
ただ愛という鋭い嘴(くちばし)に
ついばまれるままにされているのだ。

そんな私は、アポロの母を襲った罰として
やはりその身を禿鷹についばまれた、
あの有名なティテュオスよりも、ずっと憐れなのではないか。

おお、愛の縛にとらわれず
幸せに、平和に過ごしている君よ、
ただその自由を保ちたまえ、
過剰なほどにしっかりと、だ。

ひとたび恋に落ちたならば
その身に食い込むきつい鎖に
苦しみはもう、度し難いほど。

わが太陽から離れてやっと
わたしは我が身の自由を感じられる
恋に悩む人々は、
愛の園に生える無数の死の手に
その胸をさらして苦しんでいる。

私はかたわれを失い、慰めを見出せぬ巡礼者、
すべて喜びは去ってしまい
胸に矢が刺さり、死を腰に吊している、
――そんなことまで信じてくれなくてもいいが。

この人生はあまりに厳しく
つい、ぽろぽろと、
涙が、ひとしずく、またひとしずく
両方の目からこぼれてみたり、
ため息が、ふうっと
つめたく吐き出されたてみたり、
ああ、恋する心は
想い悩む魂は
苦しみ、もだえる運命なのだ――
たとえ死んでも死にきれず
生きながらに死んで、死にかかって生きているのだ。

私はいま、こう明言しよう、
「愛の苗には、涙が実をむすぶ」と。

私はまた、こう明言しよう、
「愛の春は、冬のむすめである」と、
かなりしばしばこうも言える、
「恋人たちを導くものは、ただ愛ばかりではない」と。

ああ、そしてこうも言おうか――
「ああ、なんとむごい烙印が、
甘美な焼き鏝(ごて)で押され、苦々しい傷跡を残したのだろう」と、また
「笑顔という鍵が慟哭に手渡され、
天上の甘美な喜びは、アヴェルノの冥府の入り口と
結びつけられてしまったのだ」と、そして
「愛に身を捧げるということは、
すなわち、死に身を捧げるということだ」と...。

4.丸腰にされ、情熱に満たされたわたし

わが武具は奪い去られ
情熱だけが残った、
ひどい愛の裏切り者よ、おまえが
ここに私を導いたのだ
この心の炎が少しづつ
ここでは大きくなるばかりじゃないか。

立ち去れば、すぐに
胸かきむしる苦しみ
留まれば、誰もが
恥知らず、と罵る。

ああ、ひどい身の上ではないか!
わが武具は奪い去られ
情熱だけが残るとは...
わが心は谷に落とされ
ひそかに命を奪われた、
もう、今やすっかり
火は燃え上がり、火花は弾け、
炎はちらつき、閃光が走り、
この身を焼き焦がして止むことがない。

火の手はまったく
衰えもみせぬ、
せいぜい待てというのだろうか、
恐怖にこの身が凍りつくのを。

ああ、裏切られるのが私のさだめだったのか!
わが心は谷に落とされ、
ひそかに命を奪われたのだ...

5.カンツォネッタ「媚びへつらうまなざし」

媚びへつらうようなまなざしは
アウリッラにはもう浮かばない、
淀んだ恥ずべき気持ちが疼いて
おれはこうして苦しむはめに
どうか、凍てつくような心が
この溜め息で溶けないものか?

おれの心は、ただ、ただおまえを
求めて溜め息をつくばかり――
こんな詩的な物言いは、かくも
残酷な響きをもたぬ時なら、
さぞや、心にやさしい炎を
あかるく灯してくれただろうに
 どうか、凍てつくような心が...(以下、繰り返し)

しかし――なにしろあいつは残酷
その心ばえたるや、気高くもなく
まず、誠実とばかり見えたものは
すっかり嘘であったというか?

 どうか、凍てつくような心が...(以下、繰り返し)

ちちくり合うがいい、誰なりとでも
おれは今さら何もしやせん、
休戦、戦争、平和――知ったことか、
おまえからは、ただ、害しか生まれん。

 どうか、凍てつくような心が...(以下、繰り返し)

6.マドリガーレ「なんと苦々しいことか」

なんと苦々しいことか
涙と痛みにのたうち、かつ死ぬこともできぬとは
愛がわが死を望むかのように
慈愛の聖母も、御堂の門を閉ざしているというのに
この身はおめおめ生き長らえて、思い悩んでは苦しんでいる。

ああ、たとえ地獄とて、わが心に
とこしえに燃える炎は吹き飛ばせまい。

7.ヤカラ〜ナポリ風アリア

わたしの魂が絶えず叫んでも
残酷なあなたは聞きつけもせず
誰が苦しみ、嘆くとも知らぬ。

されどわたしの舌は動かず
いくら心がこんなにも
揺れて饒舌になろうとも。

魂も心も、一緒になって
キスを、愛を、とのたまうのである
ああ、痛み苦しむわが心
愛に殉じるものの心が
わが痛みとなり、ため息となり。

そうして黙って満たされているのか
何度も傷つけられていながらも
そして何度もキスされながらも。

魂も心も、一緒になって
キスを、愛を、とのたまうのである。

8〜16.ロンバルディア方言によるセレナータ「美食夫人が謝肉祭閣下に差し上げた歌」(ルチア夫人の謝肉祭の山車)

8.最初の登場人物

昨晩、日の出が近づくころ
どえらい騒ぎが聞こえてきてな、
わしの家のすぐそばで。

急いでベランダにあがって、見れば
サイオンと、気高きスグイゾーネが
棍棒持って、じゃれあっとるのよ。

やつらが殴り合ってるのを見て
わしは上着を引っ張り出した
うん、こう――そうっと、そうっとな。

いやもう何と愉しいことか、
喧嘩の高みの見物とはね!
やつらはすっかりやみくもで、わしは離れて見ておった。

いさかいの元は何かというと、
美食夫人が、冷たいものより
熱いものがお好きと申される、
スグイゾーネは頑として聞かず
サイオンは蕪を根っこから欲しがる、
やつの財布は膨らんでるし――と、ガレンがわしに教えてくれた。

(ここで合唱)

バッコス、バッコス、活気をおくれよ
おまえを呼ぶ人みんなのところへ、
望まれたところに来ておくれ。

祭りを盛り上げ、楽しく笑うのだ、
おまえの酒は、みんなの心を湧かせてくれる。

9.美食夫人

わたしが好きなのは、白鳩、
去勢鶏、キジ、ヤマウズラ、
それに小鴨もなかなかいいわね。

取って、切り分け、どんどん頂くわ、
ポルペッタ(肉団子)、ヒナドリ、めんどり、鵞鳥、乳飲み子豚、
ただのウズラに、ヨーロッパヤマウズラ、次から次へと切り裂いて。

嬉しや、ハトが食卓に上れば
小さめウズラも、ニワムシクイも素敵、
それにシャコも、アマツバメもいけるわ。

ツグミ、ムクドリ、さらには鶴も、
ヒバリ、ズクミ、クロウタドリ、ベックーヴァ、
シジュウカラもカッコウも、葡萄をつついてるとこを食べるの。

ああ、でもハツカダイコンだとか
チコリや、レタスや、蕪はいらないわ、
そういったものは胃もたれするのよ。

あとは今から言うのだけでいいわ――ええと
ポイナ、マスカルポーネ、ミント風味のトリッパ、
ニョッキ、ラザーニャ、ラヴィオリ、あとポレンタもね。

(ここで合唱)

バッコス、バッコス、活気をおくれよ...(以下、繰り返し)

10.バッコス

おれはアルバのワインがいいねえ
マルヴァジア、ネッビオーロにグレコもうまい、
ジェンツァン酒もまた、結構なもんさ。

タッジャ、モスカテッロ、
ポシッリーポにラクリマ・クリスティ、カスカレッロなんてのもあるねえ
マリンベルヴェデーレ、オリヴィエート、キアレッロなんてのもあるねえ。

モンテフィアスコーネなんて最高でしょう、
レ・グロッテとか、モンフェッラーもいいぜ、
アヴィニョンのワインもいけるし
ピノ、モンカルヴォ、アスティの酒もうまいもんだ
ベルボ、それから藁の酒、
こいつもアルバの奴が最高でね。

あんたらにゃきっとカサーレだとか、
カミーノ、アマービレなんかが気に入るだろうな。

おれはもっと、粗野なワインが好みでね、
ヴェルナッチァとか、アスプリン・モンターニャとか、
とげとげしくて、むわっと甘いやつね。

だけどリぺッタのワインだけはいけねえ、
ウンブリアのヴェレッティや、マルケや、ロマーニャの方の
煮詰めた奴な、1杯で銅貨6枚くらいの。

(ここで合唱)

いいぞ、いいぞ、バッコスよ!
祝いの歌を歌おうじゃないか
勝利のおたけびもあげようじゃないか
愛の讃歌もついでに歌おう
婚礼の音楽までやってしまおう。

11.最初の登場人物

もうそのへんにしといてくれ、誇り高きスグイゾーネ、
ひとつメガネを取り出して
お鼻の上に載っけなさいな
そしてこんな風に書くのです、
『誇り高きサイオン、その意ありせば
ぜひ籠の中身に対価を支払うべし。』

12.合唱によるバッロ

ここでこうして奇態を演じて
楽しくやっている間くらい
ひとつ、思いきり弾きまくって
憂さを追い払おうじゃないか
謝肉祭やら、美食夫人やら
バッコスやらと楽しくやろうよ
スグイゾーネは恐るに足らんし
サイオンはただ“吹いてる”だけさ
さよなら、バッコス、ヤヌスどの
さてさて、そうっと立ち去ろう。

13.3人の足を傷めた男たちのバッロ

さあさ、踊れよ、牧人さんたち
かわいい娘さんたち連れてさ、
このかぐわしい木蔭から
わしらが笛を吹いってやらあ
ティニネネニ、ター、ター、テネネネ、
テー、ネー、テネネネネー...
ほら、手をつないで、歌い手さんたち
歌のことなぞ忘れっちまえ
ひとつ、えいっと大げさに
大胆にやっておくんなさいよ
ティニネネニ...(以下、繰り返し)

ほい、お医者さんたちも
屋根うら部屋から出ておいでなさい
たまにゃお医者も笑わにゃいかん
わしらのおかしな笛を聴いてよ

ティニネネニ...(以下、繰り返し)

14.コラシオーネの即興演奏

春の来た日に
ブナの木蔭、
恋する牧童は
コラソーネをとり
こんなふうに、つま弾いたのさ
リン・トレン・ティリン、トレン・ティリン・トレン・トレン
ティリン・トレン、ティリン・トレン、ティリン・トレン・トレン
蛙たちも笑い出すさね

15.ひどいクローリ、もう知らないぜ

ひどいクローリ、もう知らないぜ
もう苦しんだりするものか
おまえのために、この心はな。

これまでおまえに尽くしてきては
ひどい心の痛みや苦しみを
ずいぶん負わされてきたからな。

ああ、これですっかりせいせいしたよ
おまえの顔などもう見やしねえ、
その、すっかり隅々まで
おそろしい毒のたぎった顔はな、
そしてただただ希うのは、この
おれが然るべき軽蔑をもって
おまえの美貌をさげすめれば、ってことだ。

ああ、この憐れなおれの人生も
あんな苦しみとはすっかりおさらば、
そしてかわりに新しい
欲望にめざめて、おれはただもう
嬉しくってしょうがねえ。

なにしろお前は他の誰かさんと
どこかへ行っちまうわけだから。

あばよ、後には引けねえからな!
おまえを忘れた、この日、この時刻を
おれは祝福することにした、
結局、おまえがおれにくれたのは
ただ苦しみしかなかったわけだし
あれだけおまえに尽くしたところで
これっぽっちも見返りはなしだ、
おれは誰だか別の美人に、おべんちゃらを歌ってきかせて
おまえの気高さなんぞ、知ったこっちゃない。

そしておれは、愛神に感謝することにした
裏切りの心というものをたっぷりと
おれに示して、教えてくれたから。

どこ家の誰ぞがおまえと寝ようと
別に痛くも痒くもないさ――
一方おれは、あの美しい顔に出遭ったがために
すっかり満ち足りて天国に向かう、
あの、ただもうひたすらに
魅力たっぷりの羊飼いの女に
愛神はおれをすっかり惚れ込ませ
結び目をきつく結んじまったから、
それを解けるのは、ただ死だけなのさ。

16.奴隷たちのモレスカ

もう歌なんざ歌いたくはないよ
これまでいつも歌ってたようには。

だいたい痛くてしょうがねえのよ
こんな鎖をつけられちゃあな。

しかしだ、なにしろ辛いのは
ああいう残酷な恋人を持つこと、
せめてどっちかひとつだけなら
えらく幸せに思うだろうにな。

奴隷の身分でいるってことは
苦しいけれど、甘美なことだな。

もしもずっと、このまま永久に
囚われてるなら最高かもね。

まずい食事やわずかな餌で
いかにも甘美に誘われるのさ、
そう、奴隷――つまり、愛の奴隷は
ぜったい正気じゃおれないからね。

17.シャコンヌ「燃えさかる我が心」

おお燃えさかる我が心
かかる炎はただ遠ざけよ
この残酷な女から
この不誠実な女から
この心がもし「愛している」と言えば
きっと聞き流し、哄(わら)うのだろう
ああ我が心よ、どうしたのだ
このままではまず死んでしまうぞ
いや、いや、もうすまい!
恋をするなどもうたくさんだ
ただ苦しみしか生まれぬのだから...

見なさい、ここなる我が心
望みも枯れた我が心を
何か見返りを期待しようなど
思う心は、死に絶えたのだ
何を言おうと、溜め息つこうと
彼女は聞かぬふりをするだけ
苦しみに身をよじってみても
頬赤らめて、むしろ嬉々としている...

いや、いや、もうすまい!
恋をするなどもうたくさんだ
ただ苦しみしか生まれぬのだから...

※「相乗り小舟」[1]、「美食夫人」[9]、「バッコス」[10]における料理や酒の名前・野禽類の名前などの訳につきましては必ずしも専門的なものではございません。詳しく知りたい方は原文解説の仏・英対訳([1]p.19-21[9][10]p.27-28)をご参照の上、適切な判断をお願い致します。

 そのほかにも御高評・御批判などございましたら是非お伝えください。

(歌詞対訳:白沢達生)